#20-1. 2003年暮れのサンディエゴ

cpamonthly2004-02-28


巽孝之 CPA Monthlyも2000年1月に第一回をスタートして丸四年が経ち、とうとう第20回を迎えました。思い返せば、第一回のテーマは三田周辺が事故多発地帯だということでしたね。風水的にも危ないのではないか、と。当時はわれわれもシャンボール三田に住んでたんですが、あのあと2001年の初夏には三田ハウスに引っ越して南麻布寄りになり、ずいぶん雰囲気も変わりました。もっとも、そんなことを思い返していた矢先、つい先日の2月19日の木曜日に、うちのすぐそばの三の橋にパトカーや群衆がひしめいているので、またまた交通事故かと思ったら、三の橋沿いの駐車場からなぜか自動車が転落しちゃったらしい。それをロープでけんめいに引き上げようとしていたわけです。

小谷真理 知らなかったなあ。テレビにも、ヤフーのニュースにも出なかったし。でも、事故というか、事件ならほかにもいっぱいありましたよね〜。年末にはこのところ恒例になっちゃったけど、MLA(近現代語学文学協会)の年次大会でサンディエゴに行って、ちょうどサンディエゴ州立大学留学中の11期生ゼミ代・山内祥之君に再会しましたね。

 久しぶりでしたねえ。今回は4年の鷲見健吾君もレイモンド・チャンドラー研究の仕上げのためにロサンジェルス調査も兼ねて来ていたので、ふたりのクルマのおかげでほんとにラクをさせてもらいましたよ。ラホーヤへ行ったり、コロナド・アイランドへ行ったり。今年は助手の大串尚代君はもちろんですが、大学院生も永野文香君をはじめたくさんMLAに参加していたので、ゼミ始まって以来のサンディエゴ打ち上げといった感じかな。ラリイ・マキャフリイやシンダ・グレゴリーもパーティを開いてくれたし。

小谷 ラリイの友だちのポストモダン文学者でオハイオ州立大学のブライアン・マクヘイルのご一家も合流しましたね。わたしのほうは、奥方と宗教の話でもりあがってました。ユダヤ教プロテスタントという宗教上の違いを克復して駆け落ちのように結婚したらしい。いまはお嬢さんもふたりいて幸せなご家族なんだけど、当初は国境を越えて違う土地でようやく結婚できたとか。なかなかロマンティックなエピソードを伺いました。教授のほうはべつのことでも意気投合してたみたいですね。論争がらみの、いわゆるホークスの話でもりあがったのかな。

 彼の十八番はトマス・ピンチョンなんですけど、基本的にアメリカ文学史的伝統としての法螺話に造詣が深いところからメタフィクションに入れ込んでいるのがおもしろい。つい最近、最新論文は「存在しない詩人──疑似ホークスと国民的主体の構築」といって、ロバート・グリフィン編『匿名の多様な顔──16世紀から20 世紀に至る匿名・筆名出版研究』(パルグレーヴ、2003年)の最終章なんですけど、これは90年代に活躍した荒木安貞というヒロシマ被爆体験のある英語詩人がじつは実在せず、どうやらアメリカ人のペンネームだったらしい、ということが判明して激越な批判を受けた事件を扱っているんですね。わたしからすると、これはベンジャミン・フランクリンからジェイムズ・ティプトリー・ジュニアまで貫くアメリカ的伝統のような気がするんですが、ブライアンによると「にもかかわらず、ヒロシマ被爆者を偽装したというのがアメリカ人読者のトラウマを逆撫でにしたんだ」ということになる。
 もうひとつびっくりしたのは、ブライアンもわたしも、ジョナサン・カラーに習ったという点で師匠が共通していたことです。とはいっても、彼の場合はイギリス留学中、カラーがオックスフォード大学にいたころの学生なんですが、そのあとも交流が続いて、ポスト構造主義系の批評誌<ポエティクス・トゥデイ>の編集委員も委されている。それで、MLAでは彼の出演した学術誌編集をめぐるパネルも聴きに行ったわけです。このところわたしも、PMLAの卓越した編集技術には舌を巻くところがありましたから(トップページ参照)。
 今回のMLAでは、ウォルター・ベン・マイケルズが映画『メメント』に読むことのアレゴリーを見出す発表をしたオブセッション研究のパネルや、ガヤトリ・スピヴァックが1970年代に「批評理論への抵抗」が強かった時代を回想したポール・ド・マン追悼パネルが刺激的で、なかなか収穫がありましたよ。

小谷 ブライアンの奥さんも学者なのね。アジア系にずいぶん関心があると言ってました。専門は、韓国の教育学。って言われても、なにをしているのか、よくわからない(笑)。まあ、あとは、サンディエゴで有名なシーフード・レストランで宴会だったので、例によって珍妙な巻きずしを注文し、そのことでまたひとしきり。今回は、フィラデルフィア・ロ〜ル! クリームチーズとサーモンの巻きずし。うまかったっす。あとで、ジェンダーSF研究会のメーリングリストにこのことを書いたら、島田喜美子さんから、フィラデルフィア・チーズだから、このネーミングじゃないの、と指摘がありました。これ、うちで作ってもきっとイケると思う。
 あ、そーいえば、年明けにはCPA自体に関するけっこう華々しい事件がありましたが(笑)。