#19-3 クルド系カンフー!

 だから今回は、われわれにとっての最終日11月26日(水曜日)に女性作家委員会がセッティングしてくれたツアー以外では、いわゆる観光をしていない。もちろん、このときにはフリーダ・カーロ美術館へ行ったり、その付近のレオン・トロツキー記念館へ行ったり、さらに南へ足を延ばして、孔雀がひしめく広大な庭園をもつドロレス・オルメド・パティーノ美術館にも行ったりと、丸一日ミュージアムめぐり。とくにドロレスは圧巻で、ここにはフリーダ・カーロのサイボーグめいた自画像が鎮座してるんですね。
 
小谷 それでも、カフェで本読んだりしたときに、ショッピングには行ったじゃない。メキシコシティの銀座とも呼ばれるソナロッサ地区とかさ。
 教授お得意の「日本食ツァー」もやって「ミカド」とか「とうきょう」に入ったし。これはべつに日本食が欠かせない、ということではなくて、海外の日本食屋に入ると、どのくらい通常の和食からコンセプトがズレているかをとことん楽しむわけですね。ニューヨークあたりじゃ、ズレるどころか、むしろ日本よりはるかにおいしいお寿司が出たりするんですけど。
 いままでの経験に照らすと、ちょっとおかしな日本食の系統では、今ところ、昨年2002年夏に野田令子さんとご一緒したロサンゼルスの体験がサイコーで、これは、カリフォルニアまき(アボガド入り寿司)を天ぷらで揚げ、さらにクランベリーソースをかけるというサンセットロールなるメニュー。見たときはすげー気持ち悪かったけど、まあ和食の常識を捨てれば、けっこうおいしいっす。
 メキシコシティの場合は、「ミカド」だと「海老フライ定食」にはでっかい海老が五本も入っていたり、わたしがたのんだ「天ぷら定食」には、かぼちゃかのかわりにとズッキーニの天ぷらが入っていたりしたのが、ちょっとおもしろかったかな。
 食後に、今年の6月、島田喜美子さんとご一緒したソウルのあやしい露天みたいなところへ入っていってみやげ物などをどっさり値切り買い。しっかし教授はまったく、ああいうところで、よくあれだけ値切れるもんです。交渉の達人というか。

 というわけで、今回もまた、たいした事故もない代わりにろくな観光もなかったわれわれですけど。

小谷 うん、九月にナイヤガラへ行ってからこっち、なんか祟られているようにいやんな体調だったんですが、今回は山本弘本で祓ったうえ、新たな祟りを背負わないようにピラミッドもパスしたんで、メキシコ旅行以後はいい感じですね。そうそう。メキシコといえば、ユカタン半島ティプトリーも思い浮かんで、ちょっとおもしろい発見もあったんだけど、それはまた、別の機会に。いずれまた、リベンジ・ツァーしてやるぞ! By ゴス道の妻、なんちゃって(爆笑)

 ひょっとしたら、今回最大の収穫は、イラクやアフガンから来た女性詩人たちと親しくなったことかも。とくに前者、つまりイラクからロンドンやベルリンに亡命しているクルド系女性詩人たちは、基本的にイスラームでも食事などでは戒律をぜんぜん守らず平然としているけれど、さすがに後者、つまりカナダに夫がいてもカブールをベースにしている女性詩人は、たとえメキシコシティの国際ペン大会であっても戒律をきちんと守って、酒類にはまったく手をつけない。クルド系にとっては、大量虐殺者であるフセインを打倒してくれるなら、アメリカだろうがどこだろうがよかったし、いまではイスラーム以前、つまりゾロアスターに還れ、というもうひとつの原理主義的運動が起こっているという話も、たいへん興味深く聞きました。

小谷 ロンドン在住のクルド系女性詩人は、イスラームでは初めて女性の側から離婚を成立させた人なんですってね。イスラームの離婚はそれまで、男性側からしか認められなかったから。ばりばりのフェミニストだなあ。息子さんはけっこうな美形とか。

 うん、ブルース・リーに惚れ込んでて、カンフーのヨーロッパでの高校生選手権では上位を占めているらしいですよ。て、いかにも小谷さん好みの話題だなあ。そのうちハリウッド・デビューするかも。
 ということで、今年もぎりぎりだけどようやく間に合いましたね。

小谷 メリー・クリスマス!

12/23/2003