#27-1. [特別編] “アヴァン・ポップ・プラス” ツアー開催報告

 2007年6月19日から24日まで約一週間にわたり、サンディエゴ州立大学教授ラリイ・マキャフリイとシンダ・グレゴリイが行ったアヴァン・ポップ・プラス・ツアー The Avant-Pop Plus Tour。『アヴァン・ポップ 増補新版』(北星堂)の刊行を記念して行われたこのレクチャーサーキットは、東京を出発して名古屋、神戸、広島、福岡をかけめぐり、ふたたび東京へ戻るまでに、各地でさまざまなドラマを(そして心温まる交流を)生みました。CPA Monthlyでは今回、このツアーの秘蔵文書を入手。特別編として、二回にわたりお送りいたします。
 まずその第一弾としてここに掲載するテクストは、レクチャーサーキットをささえたアメリカ文学研究者たちによるレポートです。巽先生の「開幕宣言」から始まり、長澤唯史氏(椙山女学院大学教授)、秋元孝文氏(甲南大学准教授)、田中久男氏(広島大学教授)、渡邉真理子氏(西九州大学准教授)との間で交わされたメールで構成されています。ラリイ&シンダの熱いツアーを、ツアースタッフの苦労話とともにお楽しみください。[編集部記]

2007/6/19 Tue.
SENDER: 巽孝之
SUBJECT: 「開幕宣言」

巽です。
みなさん、今回はほんとうにお世話になります。
それで長めの講演要旨ですが、ゆうべ国際文化会館のデスクにも重々協力を要請しておいたものの、まだ到着しておりません。それで、わたし自身は本日は午前中に立教大学の非常勤が入っており、もう出かけなければならず、新幹線の品川駅へ送るのは小谷真理に頼んでおりますため、万が一の場合は、すれちがいになる可能性があります。それで、その場合の対策をあらかじめ練っておきたいのですが、前回申し上げたとおり、今回のラリイとシンダはPCを持参しておらずメモリスティックのみなので、長澤さん、たいへん申し訳ないのですが、名古屋駅に到着したらメモリスティックを確認して、そこに含まれているはずのデータを、ラリイのものシンダのもの両方ともこのMLに一気にアップしていただけないでしょうか。じつはシンダの要旨も本塾での講演のために至急必要なのです。それから、名古屋を発つときには、これも恐縮ですが、彼らに秋元さんの携帯番号をしっかり持たせていただけませんか。ダブルチェック、ということで。それから秋元さん、ゆうべ打ち合わせをしたところ、ラリイが「とうとうアヴァン・ポップとイラク戦争を有効に連動させる理論を思いついた!」と叫んでいましたので、講演ではそれが活かされると思います。ご安心下さい。

 それでは、いよいよツアー開始です!

 ラリイ&シンダ夫妻と巽&小谷夫妻

2007/6/20 Wed.0:02
SENDER: 長澤唯史
SUBJECT:「名古屋講演」

皆さま。
つい先ほど帰宅したので、ご連絡が遅くなりました。今日の名古屋での講演会、まあ大成功といってもよいかもしれません。うちのカナダ人の同僚とか、近辺の大学の方が学生を動員してくださったおかげで、たぶん40人程度のオーディエンスが集まったと思います(正確に数えるのを忘れていました)。大成功と言い切れないのは、ラリイがノリノリでレクチャーしてくれたので時間が押してしまい、質疑応答の時間が十分取れなかったためです。ほぼ1時間半喋り通しでした。結局準備した音源はすべて使うことはできませんでしたが、うちの、決して英語力が高いとはいえない学生でも理解が難しくないように、言葉を選んでゆっくりと喋ってくれているのが、手に取るようにわかりました。それ以上に、本当に熱を込めて話しているので、学生がその熱意に引き込まれて一生懸命理解しようと聞いている様子が、本当に感動的といってよいくらいでした。原稿を用意して読み上げるというスタイルではありませんが、心配する必要はないと思います。

 講演会終了後は、予定通り有志を募って食事会を行いました。たまたま、別の学部ですが San Diego State University 出身のアメリカ人がいて、奥さんも連れてきてくれたので(サンディエゴで一度だけ会ったことがあるそうです)、この二人が二次会まで付き合ってくれて、ラリイもシンダもすごく喜んでくれました。今日の様子は以上です。私も新幹線のホームで彼らとハグしたとたん、いろんな心配事は全部吹き飛んで、レクチャーもレセプションも心の底から楽しめました。

>長澤先生、マキャフリイ先生のメモリスティック内のデータお待ちしています。
 二人に聞いたら、今日の朝東京を出る前に、巽先生あてに送ったとのことです。したがって今日はメモリスティックは預かってきませんでした。もし必要でしたら、明日にでも改めて頼んでみます。それではまた、明日の様子を報告させていただきます。

2007/6/20 Wed. 10:40
SENDER: 長澤唯史
SUBJECT: 「ラリイ夫妻、名古屋観光」

みなさま。
先ほど無事に戻ってまいりました。今日は11時にホテルの部屋までラリイとシンダを迎えに行き、伊勢神宮までのドライブに出かけました。天候にも恵まれ、渋滞などもなくスムースに伊勢神宮の内宮までたどり着きました。昼食とお土産の買い物を先に済ませ、お参りをしたのですが、豊かな自然と静謐な雰囲気に、二人とも感銘を受けていたようで、とてもよかったと繰り返し言ってくれました。

 たどたどしいながらも私が英語で伊勢神宮の歴史について簡単に説明した後、笙野頼子さん*1の作品と伊勢のかかわりについて、私の思うところも多少補足しておきました。

 帰りもほぼ順調に名古屋まで帰り着き、身内から借りていた車を返しにいったん戻った後、地下鉄でまたホテルに戻り、夕食に出かけました。今日は「fancy restaurant よりも名古屋らしいものが食べたい」という二人のリクエストで、ホテルのすぐ近くにある「世界の山ちゃん」という手羽先のチェーン店へ行くことにしました。こちらも彼らはたいへん喜んでくれていたと思います。食事をしながら今日は文学談義、というより彼らのレクチャーを受けた気分でした。ヘミングウェイスタインベック、フォークナー、その他諸々の作家や、最近彼らのお気に入りの作品についてなど、とても刺激的な会話でした。ぜひ皆さんから水を向けて、文学の話を聞いてみてください。

 明日は9時半にホテルに迎えに行き、タクシーで名古屋駅に行って新幹線のチケットをとります。領収書も忘れずにとってきます。それから列車が決まったら出来るだけすぐに秋元さんの携帯に電話を入れますので、お待ちください。

 渡邉さんからご依頼を受けたメモリスティックの件ですが、申し訳ございません。話に夢中になって、すっかり忘れてしまいました。秋元さん、明日ラリイからメモリスティックを借りて、プロジェクション用のファイルを渡邉さんに添付で送っていただけませんか。明日が名古屋での最後の日になりますが、本当に名残惜しいです。とにかく後は無事に神戸に送り出して、秋元さんに後を託すのみです。よろしくお願いします。それではまた明日ご報告をさせていただきます。

2007/6/21 0:10
SENDER: 長澤唯史
SUBJECT: 「名古屋から神戸へ」

みなさま。
先ほど、ラリイとシンダの夫妻をぶじ新幹線に乗せて、神戸に送り出して来ました。10:57名古屋発、12:04新神戸着ののぞみです。秋元さんにはすでに携帯に連絡済ですので、ぶじにお出迎えをしてもらえることと思います。わずか二日間で、お二人ももっと時間が欲しかった、ぜひまた来たいといってくださいました。ホスト役としてはこれに勝る言葉はありません。本当は至らないところが多々あったかと思いますが、素直に感謝の言葉をくださったお二人に、こちらも感謝するのみです。このあとの講演会もぶじ成功に終わることを信じています。取り急ぎご報告まで。

 P.S. 渡邉さんよりご依頼のあったファイルの件ですが、改めて確認したところ、ビブリオや歌詞のプリントが用意されているのであれば、こちらはとくに必要ないということでした。

2007/6/21 11:16
SENDER: 秋元孝文
SUBJECT:「神戸講演」

みなさま。
神戸の秋元でございます。残念ながらカラオケにはいけませんでしたが、今日の講演、大成功と言っていいと思います。60人くらいのオーディエンスが来てくれましたし(巽先生、阪大の森岡先生と片淵先生が院生を連れて協力してくれました。あと、関学の橋本さんも)、用意した50部のハンドアウトも足りなくなるくらいでした。二次会の焼き鳥パーティーではうちの同僚、学部生、わけへだてなく話してくださって、本当にありがたかったです。
 神戸での二次会
 ラリイもシンダも本当に気遣いができる人で、感動しました。あの二人の関係は理想的ですね。そういう人に私(たち)もなりたい。AP plusは10部ほどはけました。僕もしっかりサインもらいました。本当にラリイは素晴らしい。大好きになりました。シンダも。本当に楽しい時間をすごせて、その点は巽先生に感謝です。ありがとやんす。田中先生、シンダにチケットを渡していますので明日は大丈夫と思いますが、念のために朝ホテルに電話を入れます。
 もう一日、いや一週間、いや一月ラリイとシンダとすごしたいなあ。本当に楽しかった。嬉しかった。田中先生、渡邉さん、きっとめちゃくちゃ楽しいですよ。ごゆるりとてきとうにがんばってください。

2007/6/23 1:44
SENDER: 田中久男
SUBJECT: 「広島講演」

皆さん。
秋元さんが感動された通り、私も二人の人柄やお互いの気遣いぶりに感動しました。講演会は他の授業と重なったりしたためか、30名余りとやや少なめでした。それでも AP plus は7部はけたようです。講義は、IWWの労働歌を残した Joe Hill から話を起こし、Woody Guthrie から Bob Dylan、そして Bruce Springsteen へと流れる系譜の概説をされ、その後は、Springsteenの歌う映像と彼の歌にたっぷり触れ、こころ揺すぶられました。音楽的にはほとんど音痴の私でも、歌の力というものに、認識を新たにしました。subversive, transgressive, counter-cultureなどの言葉も登場していました。それから徴兵制がしかれていたヴェトナム戦争と、徴兵制のないイラク戦争との違いの指摘も示唆的でした。

 広島駅にお迎えしてからホテルに、まず重い荷物を降ろしに寄り、fancy restaurant の食事ではなく、広島の代表的な料理が食べたいとおっしゃるので、ホテルの近くのごく庶民的な「お好み焼き」店にお連れしました。これが結構受けて、大満足されたようです。通は箸や小皿など使わず、ヘラを使って直接食べることをやってみせますと、夫妻も意外とうまくヘラを使って食べられました。ついでに、もしかしたら、秋元さんが怒られるかと心配しつつ、大阪風のお好み焼きよりも、広島風の方が断然おいしいということも宣伝しておきました。夕食は今村楯夫氏を通して夫妻を知っている新田玲子氏と一緒に、キャンパス近くの居酒屋で、彼のふるさとでもある沖縄の焼酎を飲み、盛り上がりました。来年の日本英文学会の会場は広島大学ですので、もしかしたらこの居酒屋で皆さん一緒に飲むということが起こりうるかもしれませんね。

 先ほど10時半過ぎにホテルに入りました。明日の朝はゆっくりしたいし、自分達でタクシーを取って駅にいけるのでと(おそらく私に気を遣って)おっしゃるので、夫妻の提案に甘えることにしました。のぞみ7号の6号車に乗って、12時30分に博多に着くこともしっかり認識しているようでしたので、渡辺さん、あなたの携帯電話の番号はお伝えできませんでしたが、大丈夫と思います。しかし、念のために、フロントに電話して、渡辺さんの携帯電話の番号を夫妻にお伝えしてもらうように致します。広島は雨でしたが、福岡は晴れることを願いつつ、渡辺さん、宜しくお願い致します。

2007/6/24 3:27
SENDER: 渡邉真理子
SUBJECT:「福岡講演」

皆様。
福岡の渡邉です。無事に講演会を終えました。少々長くなりますが、報告いたします。聴衆は40名で、会場の椅子が足りなくなったほどです。ラリイ先生は「土曜日の夕方なのにこんなに来てくださって。アメリカじゃ学生はまずこない。」ととてもお喜びでした。

 講演内容は、広島大学の田中先生が金曜日のメールで書かれていたものとほぼ同じでしたが、福岡は「アメリカ文学と戦争」ということで、ポップカルチャーだけではなく文学についてのお話も少しありました。私は今回司会担当ではなく、講演中も、遅れてご来場の方の座席を用意したりお茶を入れたり、雑用がメインでした。が、せわしなく動きながらも、先生のお話は堪能できました。ラリイ先生は、アヴァンポップという概念を一過性のファッションではなく、真剣に考えていらっしゃることがとてもよく分かりました。講演の最初に、「慶應タツミ教授に本をプロモートするようにいわれているので」と断り、途中、"Buy this book." を3回ほど繰り返しておられました。講演時間は全体で90分でしたが、ディスカッションの時間を設けたいので、講演本編は75分でお願いしました。しかし、ディスカッションが思いのほか盛り上がり、30分ほど続きました。日本人研究者はもちろん、ネイティヴからも質問があがりました。「教育において、反戦をテーマにした場合、9.11 以前と以降では何か変化があったか」「プロテストすることが欠落している今の若者の状況は」とか。ラリイ先生の熱弁のおかげで、本は全部で18冊売れて、サイン会は行列でした。購入者ひとりひとりとお話をなさるので、時間が心配になってしまったほどです。
 福岡講演後
 さて、続いて懇親会のご報告です。計17名のパーティとなりました。ネイティヴも4名参加です。偶然にも、参加した九大の院生が、学部時代にサンディエゴに交換留学した経験があり、シンダ先生の授業をとっていたことが判明しました。二人は再会を喜びあっていました。参加した支部会員の若手の人々は、それぞれ自分の研究内容についてお二人に相談。お二人はひとりひとりに丁寧に回答くださり、一同真剣にメモをとっていました。とにかく、大変盛り上がり、当初は 19:00−21:00の予定だったパーティが、結局23:00まで続き、私たちは4時間も語り合っていました。私は宴会司会進行から注文から、途中で帰る人の見送りまで、休む暇もありませんでしたが、みんなとてもハッピーで、私も嬉しいです!お二人はとてもお優しく、いつもみんなにさりげなく気を遣っていらっしゃいました。私もパーティ中、座席をチェンジしたりして、すべての参加者がゲストと個人的に会話できるようにアレンジしました。とても実りある会だったと、九州東海大の高田先生(日帰りで熊本から)から言っていただけました。九州では、海外からの文学研究者による講演はめったにないので(フルブライトで滞在中などを除く)、会員にとっても刺激になったと思います。巽先生、このような機会を与えてくださって、本当にありがとうございました。また、各地区の先生方にも大変お世話になりました。明日は朝から観光にお連れし、予定通り19:55初の羽田行きで東京へお戻りいただきます。巽先生、羽田からの帰り道については、明日必ずお二人に伝えますのでご安心ください。

2007/6/24 02:11
SENDER: 渡邉真理子
SUBJECT:「福岡観光を終えて」

先生方へ。
福大の渡邉です。無事に観光を終え、今ごろご夫妻は東京でぐっすりお休みのことと思います。明日は越川先生・今村先生と伊豆旅行だとか。とてもタフですね。今日は福岡の街を、大宰府、博多百年蔵、東長寺櫛田神社大濠公園、というプランでご案内しました。大宰府では「文学・学問の神」である菅原道真にお参りして、一同の今後の研究の発展を祈りました。エグザイルだった道真の悲しい物語に、興味を示していただきました。お昼は、小さな庭園をながめながら和食を楽しめる、格式ばらないけど素敵なお店を予約していました。ランチをしながら、ご夫妻から、メキシコ旅行のお話、アメリカの人種問題をめぐるパラドックスの話などうかがい、本来おもてなししなきゃいけない私たちのほうが、彼らにもてなしてもらったような感覚でした。ご夫妻は今回、日本のアカデミズムではまだまだ男女で格差がある(?)と感じたそうです。福岡講演に関わる、ほぼすべての仕事を私がやっていただけなのですが。シンダは「男性は頭のなかでいろいろ考えるのに忙しくて、実際に体使って働く余裕がないのよ」と笑っていらっしゃいました。櫛田神社では、7月の「博多山笠」の飾り山がすでに準備完了で、いち早く見物できました。「追い山」の模様を映したビデオなどを鑑賞。博多の男性たちが感情を豊かに表現する姿に感心なさっておいででした。日本の一般的なビジネスマンは、普通は感情をあらわにすることはないから、emotional な山笠男性の姿は特に新鮮に映るそうです。面白いアトラクションとしては、東長寺(日本最大の木造の仏像があります)の「無間地獄・極楽体験」。エンターテインメントではなく非常にマジメなコーナーなので、メディアでも宣伝されていないのですが、完璧な闇(地獄)のなかを手探りで進み、最後に「極楽」へと出るものです。私も初めて行きましたが、こんな闇を経験するのは初めてで怖かったです。途中、信仰を失わずに「仏の輪」を手探りで探さないといけないのですが、ラリイが最初に見つけたらしく。みんなで闇のなか「Whose hand??」「Have you got it?」と叫び混乱しつつ、盛り上がりました。ラリイたちは「Pilgrim's Progressだ*2」「仏教にはhellはないと思っていた。ショック!」とのこと。
 福岡観光中のラリイ&シンダ

 「極楽」の場では、thank you を繰り返しチャーミングでした。短い期間のご滞在でしたが、いつかまた「追い山」の日(7月15日早朝)に博多に戻ってきて、祭りを楽しみたいとのこと。私もまたいつか必ず再会したいです。彼らのご自宅があるボレーゴ・スプリングスにも興味がわきました!

 名古屋からはじまったツアーが、ひとまず九州まで終了して安心しました。みなさま、本当にお疲れさまでした。
 博多にてサムライ・シンダ

特集はまだまだ続きます。お楽しみに!

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*1:集英社の『すばる』10月号(9月6日発売)に、ラリイ・マキャフリイと笙野頼子氏の対談「我は金毘羅、ハイブリッド神にしてアヴァンポップ!」が掲載されています。

*2:ジョン・バニヤン天路歴程』のこと。