#22-1. 少女文化の鬼

cpamonthly2004-08-07


巽孝之 今年こそはタイトルどおり月刊を守ろう、と思ってたんですが、春学期にはいつになく忙しくて、気がついたらもう夏休み。われわれふたりとも、ふつうの講演とは一味ちがうオープンキャンパスの模擬授業なるものに引っ張り出されたりしてますが。

小谷真理 とくにこのところ忙しかったのは、6月末の九州出張が入ったからで、あれは教授の福岡女子大学大学院の集中講義および講演会(http://www.fwu.ac.jp/EN/graduate/gradforum.htm)とわたしの熊本日々新聞主催講演会とが、重なったのね。わたしのほうは福岡から単身で別府へ行き、熊本で再度教授と合流するなんてことしてました。なんでかっていうと、ジェンダーSF研究会の有志と別府温泉のコスプレ旅館で、コスプレ宴会するという崇高な目的があったからなんです。

 福岡女子大学は新進気鋭の若手研究者が質量ともに非常に盛り上がっていて、先生方も学生たちもとてもいい雰囲気でしたね。小谷さんは別府の旅館じゃ花魁のやつとか、すごい写真をたくさん撮ったんですって?

小谷 いや〜、興奮しました。和装コスプレのすごいやつってなかなかふだんは体験できないし。舞台化粧をして、かつらをあわせて、衣裳を着付けて。いやその重かったこと。ふとんを着ているようで、正直足がつりました(笑)
 われわれは四人で行ったのですが、その豪華絢爛なできあがりは、もうファンタジー(笑)。胸がスカッとしましたねえ〜(笑)。別府温泉観光もおもしろかったし。砂風呂にもはいったし。真っ赤なかわいい九州横断鉄道の電車でスィッチバックも体験しました。

 小谷さんのファンタジー講演は100名近い貴婦人相手にホテル日航熊本の豪華昼食会という形式で大成功、サイン会つきで。

小谷 熊本日々新聞女性文化の会というところですね。わたしのハリー・ポッター本は、なぜか九州地区がダントツで完売状態だったのですね。なんででしょうね。講演がおわってから、同じ建物で開催されている生人形展を見ることもできて、しごくラッキーでした。すっごくなまなましくてよくできているけど、体の部分はほとんどハリボテだから、手と顔しか残ってなくて。なんだか、その残り方自体が壮絶だったなあ。個を判別するのに必要な部分だけが残っているんだね〜。
 それと、そうそう。旅行の楽しみは、ご当地のSF関係者にお会いすることなのですが。

 熊本ではとうとう長年の社長業からフルタイム作家になられた梶尾眞治さんから熱っぽく紹介してもらった菊陽町図書館というところにも寄りましたが、ここがすごい(http://www.kikuyo-lib.jp/)。日本一の少女雑誌コレクションがあり、ちょうど「中原淳一の世界」展をやっていて、半世紀近いキャリアを誇るコレクターから学芸員に転じた村崎修三さん(66歳)の懇切丁寧な解説には、ほんとに感動しましたよ。この人こそ少女文化の鬼、というか。わたしが思い入れがあるのは西谷祥子さんがレギュラーだった<セブンティーン>ぐらいで、とくに少女雑誌フリークというわけじゃないんだけど、そんなわたしにも彼のオタク心というのが、どのようなジャンルにも通ずるホンモノであることが、切々と伝わってきたものです。
 川端康成とかいま西条八十って、この分野でずいぶん稼いでたんですね。この図書館はふろくまで丹念に集めて、特製の書架にきちんとまとめているのに、びっくり。
 
小谷 村崎さんに勧められたんで、このあいだは八ヶ岳別荘から帰京する途中、河口湖の中原淳一美術館(http://www.fujisan.ne.jp/nakahara/)にも立ち寄りましたねえ。ここも凄かったな、<それいゆ>の復刻版とか、まさか手にはいるとは思わなかったし。さっそく、いま大阪大学で教えながら日本の「少女文化」を研究しているメアリ・ナイトンにも送ってあげたりして。

 中原淳一浅丘ルリ子の名付け親だってことも、初めて知りましたよ。