#24-7. 女性状SF

高橋:小谷さんも同人誌を出されていたのですよね。

小谷:ええ、出していました。『ローラリアス』というファンタジーヒロイック・ファンタジー中心の雑誌で78年創刊です。私は副会長をやっていました。『SFマガジン』に広告を載せたこともありますし、87年には私と巽との結婚ファンジンを出したりしました。

高橋:(現物を見せて頂く)おお、錚々たるメンバーがメッセージを寄せていますね。

小谷:『ローラリアス』からプロになったのは、作家ではひかわ玲子中村融、漫画家では松本霊古、それからイラストレーターでは末弥純がいます。

高橋:ああ、あの『魔王伝』の。私、イラストが欲しくて本を買ってしまいました(笑)。いや、もちろん小説もちゃんと読みましたよ。

:発狂者も一人出たとか。まあ世の中には阿含宗に入るかハヤカワに入るか迷ったという人もいるし。

高橋:それはまた極端な…。

:SF ファンってそうなんですよ。このジャンルに世界全体、人生全体を求めてしまう。だからこそ、60年代はSFを選ぶか政治を選ぶかで論争になったし、90年代はSFか新興宗教かが選択肢になった。じつはわたしは、1980年代のアメリカ留学中にウィリアム・ギブスンを中心とするサイバーパンク運動に出会って、当時ワシントンDCに住んでいたスティーヴ・ブラウンに誘われ一緒に批評誌<SFアイ>を創刊するんですけど―英語圏に行っても同人誌魂が消えないわけです(笑)―ギブスンもブラウンも1960年代にはヴェトナム戦争時代の苦汁を嘗めて二者択一を迫られた典型的なフラワーチルドレンだったからこそ、 1980年代にこうした革新的な文化を形成することになったと言っていいでしょう。

高橋:やはり形而上学的に物事を考えてしまう癖があるのでしょうか。「世界とは何か」、「人間とは何か」とどんどん突き詰めて考えていくと、そういった選択を迫られる状況に追い込まれざるを得ないというか。私はその辺、自戒しているのですが。例えば「不条理だ」ということも一種の理論になってしまう可能性があるわけで、でも「私」や「世界」はもっと雑駁でゴタゴタしていて一つの理論で説明のつくものではない。だから、観念的になりすぎたらお笑いを見ます。軽視されがちなことですが、お笑い・ユーモアというのは効果的な異化作用を持っていると思いますね。女性のSFというと私は芽田砂胡の『スカーレット・ウィザード』が好きなのですが。

小谷:あの作品は私も発起人のひとりである「ジェンダーSF研究会」の第一回センス・オブ・ジェンダー賞を、2002年に受賞しました。アメリカのウィスコンという大会では、「ティプトリー賞」が設立されていて、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアのような、従来のジェンダー理解に新風を吹き込んだ作品に与えられるんです。そういうことを日本でもやれたらどうか、とウィスコン側の示唆を受けて「センス・オブ・ジェンダー賞」をつくったのです。

高橋:やはりあの作品は高い評価を受けるべきですよね。