#25-2. 『ナルニア国ものがたり』を観る!

小谷:オックスフォードはトルキーンやルイスなど、文学愛好会インクリングズの生息地だったので、そのあたりにも詳しいトニーがひとつひとつ文学史的解説を加えながら歩いてくれたのは、とてもうれしかったですね。とくにルイスのいたモードリン・カレッジの回廊をみたとき、「あっ、ナルニアに出てくるケア・パラベル城って、きっとこんな感じだったのかも」って思うほど優美な雰囲気でした。建物にちょっと女性的な華やかさがあるんです。
 あとは、ハリー・ポッターの映画に登場するホグワーツ魔法魔術学校の食堂が、クライスト・チャーチだということも現地で見物して知りました。わたしの感覚だと、クライスト・チャーチと聞くと、まず『アリス』の作者ルイス・キャロル(チャールズ・ドジスン)の勤め先だと考えるのですが、現地では完全にハリー・ポッターのロケ地として人気があるみたい。世界中から子供たちがつめかけていて、すごく並びました(笑)。みんなあの本を読んでいるのか(あるいは単に映画を見ただけなのか?)と思うと、なかなか感慨深かったし。

:そういえば、暮れには再びMLA(近現代語学文学会)の年次大会のため、今年に限っては東京より暖かいんじゃないかと思われるワシントンDCに滞在しましたね。大晦日に帰国便に乗り、太平洋上の日付変更線を見下ろしながら(笑)元旦に帰ってきたばかりなんですが、ワシントンDCのチャイナタウンの劇場では、とうとう映画版の『ナルニア』も観ちゃいましたよね。

小谷:観ちゃいましたよ〜!

:行く前に、じつはトニーから「これこそはここ数年でいちばんホンモノを感じさせる映画だ!」と大絶賛するクリスマス・カードをもらっていて、そこには英国リアリズム作家トマス・ハーディの有名な詩“Snow in the Suburbs”が引用されていたんですが、彼がなんでこの詩を選んだのか、『ナルニア』観てわかりましたよ。

小谷:『ナルニア』はねえ、ティルダ・スウィントンがめちゃくちゃ力演だったと思います。キアヌ・リーブス主演の『コンスタンティン』では大天使ガブリエルやった女優さん。いつだったか、『オーランドー』も彼女が演じていた。とにかくすごかった(笑)。
 白い魔女って、なんというか抽象度が高いキャラだと思うんですよ。とりあえず白くて女王様で女の格好をしているけど、その向こう側に得体の知れない怪物がとじこめられているような、本当に幻想的な存在なんです。しかも、彼女は、異次元でいちど世界の終わりを体験している、世界最後のひとりなんですよね。それをスウィントンが実に巧妙に演じている。スウィントンの現実離れした雰囲気がとてもよかったと思います。

:わたしもこの機会に初めてきちんと通読したんですが、けっこう小説に忠実なので驚きました。ルイスは別世界物語の第三巻『いまわしき砦の戦い──サルカンドラ』(中村妙子訳、原書房)に解説を書いたとき、ウェルズやステープルドンの影響を感じたんですが、『ナルニア』はその最大の証拠ですね。個人的な好みからいうと、『指輪物語』(『ロード・オブ・ザ・リング』)のようなハイ・ファンタジーよりは、『ナルニア』から『ハリー・ポッター』に受け継がれるロー・ファンタジーのほうに惹かれるところがあるから。魔法が当時のハイテクノロジーであるラジオにたとえられてるところなんか、ロー・ファンタジーならではの魅力です。

小谷:映画版に限っていうと、最近残虐度の増している『ハリー・ポッター』とかホラー風味の『ロード・オブ・ザ・リング』より、お子様にも安心してすすめられる感じ。ディズニーだからか、と思う部分多数(笑)。セクシュアリティ近かったのかな、とかいろいろツッコミどころは満載だったんですけど、ネタばれになっちゃうから、みなさん是非ごらんください。
 とにかく、わたしのほうは、もう一回見たいーッ! て思ったんで、教授がMLA出ているあいだに、隙をぬすんで二度目も行ってきましたよ。それで、二度目のほうがさらにすばらしいと思いました(笑)。一回目のときには興奮しすぎて見落としがいっぱいあったんですが(笑)、二度目はちょっと気をとりなおして──先のストーリーまですでにおぼえるほど読んでいるわけですから、あの子たちの運命がどうなるか知っているわけで、それを思い出しながらみていくと、より感慨深かったですね。