#22-4. もう誰も愛さない

 ところで、最近衝撃的だった映画といえば『下妻物語』ということで、珍しくわれらふたり意見が一致していますが、さらにうれしかったのは、新作というよりも1991年前半の連続テレビドラマ『もう誰も愛さない』のDVD四枚組が出たことですね。携帯電話もインターネットもいまのようには存在しないし、何よりも今日のお台場の影ひとつない世界ですが、改めて全編通すと、これはやっぱりどえらい傑作だったな、というのがわかります。

小谷 半分ずつお金を出し合って即買した価値はありましたね。とにかく吉田栄作もいいし、山口智子も田中美奈子もいい。何より、脚本が最初から伏線張りまくりで、ラストでドカーン!と効いてくるのよ。

 いまはねえ、連続テレビドラマは映画とタイアップするか、リメイクかという時代でしょう。まったく新しい脚本というのが作れなくなっている。
 竹野内豊主演の『人間の証明』だって、1970年代半ばだから、わたしがちょうど学部生時代に大ベストセラーになった作品で、その何回目かの映像化なんですが、大枠は変わっていない。さっきふれた西条八十の詩は、いまだとこの作品で知る人も多いんじゃないかな。ただ、今回のリメイクはちょっとだけ仕掛けがあって、そこがユニークですね。原作では殺される混血黒人青年ジョニー・ヘイワードはニューヨーク在住で、松田優作主演の最初の映画化でも、この設定は守られているんですが、今回のテレビ版では、ジョニーの住所は「ミシシッピ州ジェファソン」に変更されているんですよ。精確にいえばこれは「ミシシッピ州ヨクナパトーファ群ジェファソン」という、フォークナー作品にしか存在しない架空の地名ですから、これはまちがいなく『人間の証明』をフォークナーの『八月の光』で再解釈しようとした実験といえる。
 もちろん、『もう誰も愛さない』では記憶喪失の役だった観月ありさが、13年を経て、現在の主演作『君が思い出になるまえに』では記憶喪失、それも解離性健忘症の義兄を助ける役に変わっているのも注目に値しますが。

小谷 『もう誰も愛さない』は、音楽がランディ・クロフォードの「スウィート・ラヴ」なんだよね。この曲聴くと、自動的に1990年代初頭のバブル絶頂期を思い出すよねえ。金まみれの幻想世界。あのときは、ゲラゲラ笑いながら観ていたモノだけど、十数年経って観直してみると、ほんとうにあんな世界観がそれほど遠くない過去に、現実に存在していたんですよね。まるっきりフェイクなジェットコースタードラマだとばかり思っていたのに、今だとある種のリアリテイを持ってながめられる。いまじゃ『もう誰も愛さない』どころか『誰も知らない』だもんね。なんだか皮肉ですね。

 8/7/2004