#22-3.アリプロ、アニパロ?

 7 月には二度ほどライヴに足を運びましたね。7月15日のアリ・プロジェクトの「地獄の季節」は、オンエア・ウェストの特等席で観ることができたんですが、いやはや宝野アリカさんのお色直しもさることながら、今回は日本刀を振り回すステージ・アクションが凄かった。ELPの後楽園ライヴを思い出したりして。プログレと日本刀は相性がいいのかなあ(笑)。
 じつはわれわれは室内楽趣向の「月光ソワレ」コンサートから入ったので、ロックバンドとしてのアリプロをきちんと観たのは、これが初めてなんですね。今回のパフォーマンスではさらに、ドラァグ・クイーンのかたがたが登場して振付もばっちり。アリプロは「コッペリアの柩」以来、一貫してリラダン的というかコールダーな自動人形のモチーフを温めてきていますから、その点でも彼女たちはキマってました。ラストの「未来のイヴ」では文字通りガイノイドの模倣を演じてみせる振付で、大喝采

小谷 アリカさんはいつにもましてゴスロリ・ファッションが凄かったですね。振り袖を裏返しに着てるのには、ドギモを抜かれましたよ。。  
 先月、アリプロ以前の7月7日にもうひとつ行ったのは、教授もわたしも初めてだったんだけど、菊池誠クンの強力なオススメによるプログレ・ピアニスト黒田亜樹さんが、六本木のスウィートベイジルにて行なったライヴ「キース・エマーソンへの手紙」。ELPの『タルカス』をピアノひとつでぜんぶやっちゃうの。それも、まるで飛び跳ねるみたいに、何だかとっても楽しそうに弾くんだよね。

 もともとアタック感の強烈なスタインウェイを好むエマーソンの楽曲を、そもそもピアニッシモが売りのベーゼンドルファーで弾き直すだけでも、たいへんラディカルな再解釈だったと思うんですよ。ベーゼンドルファーっていうのは、たとえば青柳いづみこさんのようにラヴェルとかドビュッシーとかリストとか繊細な表現にはぴったりなんですけど、まさかきわめてパーカッシヴな現代音楽で使われるとは思わなかったから。あの多彩なアイデアにあふれたタルカス再解釈を生で聴くのはもちろん、あれほど楽しそうに弾くのを「観る」のは、それ自体が圧倒的にさわやかな体験でした。
 もうひとつ、関西公演でやったというので期待したのは、ELPの『ワークス』に入っている「ピアノ協奏曲第一番第三楽章」で、これがイントロで響き始めたときにはぞくぞくしたものです。ツカミにはぴったりの元気のよさ。ELP1977年モントリオール・ライヴの映像でキース自身が弾くヴァージョンも確認しましたが、このときのライヴは全体に出来がよくて、「レディース&ジェントルメン」をしのぐほどにピアノ・インプロヴィゼイションがノリノリなんですね。
 アンコール版の「展覧会の絵」も、カール・パーマーの再解釈というのかな、たいへんにおもしろいものでした。この日、黒田亜樹と絶妙のコンビネーションを見せてくれたパーカッショニスト神田佳子さんはヴァイオリニスト野口千代光さんと『CYプロジェクト』を出してますが、ここにも黒田亜樹は参加していて、スコット・ジョプリンやジョージ・ガーシュイン、それにもちろん伊福部昭のカバーで凄くいい味を出している。

小谷 わたしはビル・ブラッフォード狂ですからね、パーカッションには厳しいんだけど、神田さんはよかったなあ。

 そうそう、MCで黒田氏が言っていた「ピアソラとエマーソンをヒナステラがつないでいる」という見解も洞察にあふれていました。わたしも上野耕路アレンジのピアソラ・アルバム「ラビリンス」は、いまもって愛聴盤だったりします。一昨年、元プログレ・ファンであるピアソラ研究家・小沼純一氏と対談した時のことを思い出したりして。
 ということで、めったにアンケート用紙には記入しないのですが、この日のライヴはあまりに感動したので「悪の教典#9第二印象」をリクエストしてしまった次第。ライヴの前にはわたしもヒナステラの「トッカータ」か、彼女のファーストアルバム『TANGO2000』の収録曲を期待していたのですが、彼女の弾くあのすがたを観ていたら、自然に浮かんできた曲です。たぶん、ぴったりなんじゃないかな。エマーソン・ファンの掲示板にはまったく同じことを書き込んでいた人もいたから、黒田亜樹のスタイルからすると、いずれはレパートリーに入るんじゃないかと思います。

小谷 わたしゃ結婚してから17年間、毎日毎日、自分の趣味には合わないプログレばっかり聴かされてきましたけど、このライヴを聴いて感じたのは「黒田亜樹ってオリジナルより面白いアニパロみたいだこりゃ」ってことなんです。これ、朝日新聞のコラムにも書いちゃったけどね。そしたら菊池誠君は「んー、朝日の読者には「アニパロ」って言葉のほうが「プログレ」より異言語かもお(^^)」なんて、レス付けてましたけど。
 もっとも、会場ではプログレマイケル・ムアコックの双方を愛するOkkoさんも近くの席だったので運良く歓談できました。Okkoさんは、教授とわたしのこれだけちがう趣味を、両方理解できるという、世にも貴重なヒトなのです。