#21-3.夜を取り戻せ!

小谷 あれねえ〜。エイプリル・フール、つまり4月1日夕刻に、デューク大学で女性を中心としたデモがあったんで、ダイアンに誘われて参加してきたんですよ。ダイアンは、文化人類学の領域ではグアテマラ研究でしられているヒトですが、実は熱烈なサイバーパンク・ファン。昨年、アミタヴ・ゴーシュ『カルカッタ染色体』を、ジェンダー&ポスコロ理論で分析した名論文を学術誌<SF Studies>に発表してるほど。あれはハラウェイ学派(笑)としては、お手本のようなきっちりした論考で、スタイリツシュな部分もふくめて、すごくよかった。サイバーパンクが、おしゃれ系だという手堅い見本ですね(笑)
 その彼女が、デューク大学では年次イベントであるTAKE BACK THE NIGHTムーヴメントの一環のデモがあるから、一緒に行こう、と言ってくれたんですよ。「夜を取り戻せ」運動とでもいうのかな。レイプ事件が頻発する校内で、女性でも夜安心して歩けるような世界にしようという趣旨で、これは年一回、スローガンをさけびながらイースト・キャンパスからウェスト・キャンパスまで練り歩くという超たのしい企画なのね。60年代から続けられているそうです。
 デューク大学は、南部では高学費で知られる超エリート名門校なのですが、今年に入ってからなんと三件もレイプ事件があり、女子学生の怒りは爆発! そこで今年は女性教員も総出で支援するということで、かなりおおがかりな企画になったというわけですね。
 名門校だし保守的な学校だから3-40人かなと思って出かけたのですが、パトカーにエスコートされた部隊はだんだんふくれあがって、最終的には200人以上になり、テレビカメラも出動。ダイアンもCNNに取材されてました。
 デモ隊にはあらかじめ、スローガンを書いたビラが配られて、それを詠唱しながら行進するというものでした。こんな内容です。

Women / United /Will Never Be Defeated
2-4-6-8 We Won't Stand For Any Rape!
Women Unite / Take Back The Night
Yes Means Yes / No Means No / Whatever I Wear / Wherever I Go!
Out of the dorms /Into the Streets / We Won't Be Raped/ We Won't Be Beat
Hey Hey / Ho Ho / All Rape / Has Got to Go!
Join Together / Free Our Lives / We Will Not / Be Victimized
We Have the Power / We Have the Right / The Streets Are Ours / Take Back The Night
We Are Women / We Are Strong / Violence Against Us / Has Lived Too Long
Take Back the Night / The Time is Near / We Will Not Be / Controlled by Fear
Sexists / Rapists / Anti-Gay / Don't Take Our Night Away!!

 寒い晩でしたが、行進自体はけっこうたのしく、なかなか「やったね、いい感じじゃん」とか思っていたのですが、実はそのあと、地獄を見ることに!
 行進が終わって記念講堂の前に集結して、それで終わりかと思っていたら、芝生のうえに座らされ、以後エンエンと、大告白大会を聞くことになりました。で、その話が、すごかった。陰惨な内容もさることながら、やっぱり生の体験をそのまま語ってくださるわけですから、その現場に直接たちあうようなつらさがあるわけです。
 心の準備ができてなかったワタシは、そんなわけで、十数件聞いただけ気分が悪くなってきて途中でギブアップしてしまったのですが、とくに妹さんを殺された女性の叫びは、思い出しても落ち込んでしまうほどでした。
 ただ、それにしても、こんなにレイプの話があるものなのかと疑問に感じたわたしは、ダイアンに聞いてみると、「アメリカで四人にひとりはレイプ体験があるのよ」との返事でしたね。とくに大学ではアメフトやバスケットなどスポーツ競技会があると、事件発生率はあがり、今年のデューク大学で起きた事件のうち一件は、まさにその典型で、学生寮で静かに勉強していた女子学生も被害にあってしまったとか。女子学生の怒りが炸裂するにも道理ですよね。
 日本では、あんまりマイクで自己体験を告白するという方法論はお目にかかったことないので、それがこれほど盛大に行われるという事実にもすごく驚かされましたね。ともかく、女子学生たちの証言があまりに衝撃的で、そのこと自体とぶつかって、どうにも言語化できない苦しみを味わったわたしは、帰国後高橋哲哉氏の『証言のポリティクス』(未来社)と乙一に一時逃避し、耽溺したほど。「日常性を破壊される、超越的な衝撃」をどう扱うのかという問題に改めて直面した、というわけです。自分自身のテクハラ事件でも考えさせられたけど、でも桁違いだと思った。

 わたしは一応男性なので、このデモには同行できなかったんですね。ダイアンはデューク大学イースト・キャンパスにあるギルバート・アダムス学生寮で舎監みたいなことをやっていて、そこにマークもころがりこんでるので、デモのあいだは、彼が借りてきてくれたソフィア・コッポラアカデミー賞脚本賞受賞作「ロスト・イン・トランスレーション」のDVD観てました。彼女の映画では第一作のほうが好きだけど、このDVDは何と言っても特典映像がすごい。そっちのほうが物語よりおもしろいくらい。翌日4月2日には、この寮の一室で、歓迎会をやってもらいましたよね。

小谷 マークとダイアンが、いっしょうけんめいカリフォルニア巻を握ってくれたのにはびっくり。このパーティでも、デモのことはすごい話題だったのですが、それでは最近の日本での性犯罪はなにかと質問され、「埼京線になぜ女性専用車両ができたのか」という話をしていたら、同席していた「囲み+痴漢ネット」犯罪事情をご存じない関西方面の水島一憲氏(大阪経済大学所属でデューク大学訪問教授、ネグリ&ハート『帝国』の訳者のおひとり)が顔面蒼白になって怒りに震えておられたのが印象的でした。性犯罪の深刻さとはいったいなんなのかってことは、今後ちゃんと考えようと決意しました。

 わたしは水島さんとは、音楽の話をしてたなあ。日本のプログレ・バンドの最新鋭Sixthnorthのこととか、ずいぶん詳しい方でしたね。