#21-2.ノース・カロライナの春休み

小谷 『コールド・マウンテン』は、こないだ六本木ヒルズでようやく観ました。水曜日で1000円だからっていうので行ったら、最前列しかあいてなくて、首を90度に屈曲して見てたら、しばらくもとにもどらなかった。苦しかった。 
 でも、内容が「女子供老人のユートピアと、種馬化されるオトコ」というすごい方角へつきすすんでしまい……いや〜、戦争って、結局しょうもない男を消すための、人類の知恵なのかも……という雰囲気すらただよっていて、なんだか笑っちゃいましたよ。主演の男性ジュード・ロウというのが、そういう悲哀が実によく似合う俳優でね。この構図は案外シェリ・テッパーの『女の国の門』そのものなのかもしれないと思いましたね。シェリ・テッパーのアイディアってアメリカの現実感をよく反映しているなって思います。
 ニコール・キッドマンがまた、こういう内容に実によく似合う女優さんなのね。最初は、な〜んにもできないウブで無能な箱入り娘という感じだったのに、いやー、あれよあれよという間にたくましなっていく。そのかっこいいこと! 『プラクティカル・マジック』もそうだったけど、なんだか女と女の世の中に住んでいるのが一番あっている感じ。『プラクティカル・マジック』も、完全女系家族──ティプリーの「男たちの知らない女」のような──のお話ですが、ティプトリーと違って、女性のすてきなライフスタイルがけっこう細かく描かれていて、めちゃくちゃかわいくって、大好きです。夜中に女四人でマルガリータ飲むとことかね(笑)。
 あ、それで今回の渡米は、教授のデュークの仕事の最終調整というので、わたしは息抜きのつもりだったんだけど。

 そう、デューク大学編集局のレナルズ・スミスと打ち合わせを進めるのが最大の目的で、カロライナ・インに泊まってたんですね。チャペルヒルでは運良く、マーク・トウェイン協会では一緒に編集委員やってる立教大学後藤和彦氏や、ゼミ七期生・深瀬有希子君の親友でプログレで博士論文書いてるという音楽研究家・川本聡胤夫妻にも会えたのはうれしかった。ところが、昨年は三田の訪問教授で現在は UNC助教授の日本学者マーク・ドリスコルが、いきなり「資金を確保したから、3月31日にマリに講演頼む」って。マークは学生思いの、とってもいい先生やってるみたいですね、授業では『エヴァンゲリオン』やアリ・プロジェクトのライヴ・ビデオ見せたりしてるらしい。講演の司会もうまかったなあ。
 UNCの日本関係の情報源は少ないらしく、朝日新聞ひとつ入っていないみたいだから、マークのサブカル授業と小谷さんのゴスロリ講義で、アメリカ南部の若者のポストモダン日本像はほぼ決定したというか。

小谷 まさか(笑)。いやわたしが驚いたのは、学生が案外日本のポツプカルチヤーに充分通じているっていう手応えでした。見せた映像の中では、宝塚への関心が高いのはわかるんですが、ヴィジュアル系ロックバンドがあれほどウケてるとは思わなかったし。アニメでも『TAMALA2010』に狂って、けっこう詳しい男の子もいたし。

 完全なキャラ萌えなのね。トマス・ピンチョンの『競売ナンバー49の叫び』も読まずに夢中になってたから。
 そういえば、マークのパートナーでデューク大学に勤務する文化人類学者ダイアン・ネルソンもずいぶん面倒みてくれたけど、小谷さんはデュークのキャンパスでは日本でもやったことないような、かなり特殊な経験をしたでしょう。