#11-1. 2001年アムトラックの旅

cpamonthly2001-11-18


巽孝之 いやあ前回が8 月2日付で、ローリー・エディソンの写真展のこととか喋ってるでしょう。もう4ヶ月近く経ってる。
 あのあと、ゼミOG依田由布子君が出演したユーム・エンタープライズのオムニバス演劇のひとつ「幕張の女」(8月8日、於・銀座みゆき館劇場)も観たけど、ともあれ脚本のたいへん優れた拾いものでしたねえ。コンパニオンとカメラ小僧の駆け引きが絶妙でした。
 いずれにしても、CPA マンスリーっていうのはふしぎなもので、いったん更新が終わると、その瞬間には、よおしこんどは来週にでも更新してやるぞって思うし、げんに夏休み後半にはもう一回ぐらい更新できるかなって甘い甘い期待があったんですけれども。

小谷真理 それは、教授がずうっとクジラ漬けだったからじゃない?

  そうですね、今年の夏休み後半には、8月24日から一週間ほど、マサチューセッツ州アマースト近郊に暮らす畏友・マイケル・キージング一家のところに泊まり込んで、ずいぶんアメリカ文学詣に行ったものです。おかげで、この10月4日のアメリカ文学会全国大会パネル「『白鯨』ウォッチング」のためには、大きな収穫がありましたよ。そもそもアマーストは詩人エミリ・ディキンソンが住んでた街だし、少しバークシャーのほうへ足をのばせばメルヴィルが『白鯨』を書いたアローヘッドの家もあるし、ニュー・ベッドフォード行けば捕鯨博物館もあるし。そうそう、ガイド嬢によれば、アローヘッドの家から見えるグレイロック山の山並みがマッコウクジラの背中を彷彿とさせたので、それがあの長篇を書く直接のきっかけになった、という話で。

小谷 あたしはそれ聞いた瞬間、真っ赤なウソだと思いましたけどね。あのヤマ、クジラの背中なんかに、見えなかったけどな。たんなる郷土愛じゃない? 郷土愛。うーんメルヴィルってどこがいいのかなあ。

 けっこう、やおいなんだけども。

小谷 そんなことより、今回おもしろかったのは、小澤征爾で有名なタングルウッドのコンサートにも出かけたりしたこととか、シルヴィア・プラスの出たスミス女子大周辺のカレッジ・タウンでレズビアンカップルをいっぱいウォッチングできたこととか、マイケルのところで奥様のミカさん、ひとり娘のウミちゃんと、旧交をあたためたこととか。
 なにしろ、コンビニひとつない東海岸のスモールタウンで、和食党のあたしのために、納豆ご飯とか味噌汁とかおにぎりとか正しい朝食を毎朝たくさん作ってくださったんですから、感動するっきゃないじゃん。ウミちゃんがお話いっぱい作ってるのも楽しかったな。コンブという名前のあひるが、主人公なんだ。「そしてねコンブが」「そしてねコンブが」ってしょっちゅう言ってるから海草かと思ったら、キャラクターの名前なのね。日本語忘れないように、日本人だけの学校にも通ってるんだって。5歳で完全にバイリンガル。いいなあ、あれ。あひるのコンブ。

  久々にアムトラックに乗って移動したフィラデルフィアでも、郊外のチャッズ・フォードにある憧れのブランディワイン・リバー美術館へドライヴしたりしましたね。

小谷 そうそう、5, 6年ほど前には友だちのファンタジー作家エリザベス・ハンドがメイン州へ来い来いっていうから、彼女一家が暮らすログキャビンのお世話になったことがあるけど、あの時にはクリスティーナ・オルソンの実家だったオルソン家内部のワイエス美術館へ連れてってもらって。
 こんど行ったチャッズ・フォードは、アンドルー・ワイエスの手になる謎のヌード群発覚ってことで、一時スキャンダラスな話題になったヘルガ肖像画群が描かれたところですよね?。ともかくここは、ワイエス家ゆかりの美術館ということで、絵もそろってれば資料もそろってる。しかも、ワイエスに影響を与えた画家たちやワイエス系の画家たちの作品もずらりとそろってる。
 ダウンタウンからは、交通機関がぜんぜんなくて、たいへんでしたが、アート研究家である川合康雄さんとか、アーティストの田中光さん、関西の元締・桐山芳男さんたちもご一緒だったので、話がはずみました。川沿いのところが、ちょっとワイエス絵画のテーマパークみたいになってて、ワイエス風のブタの銅像とかあって。