#4 いまだ成仏しない少女魂のために

cpamonthly2000-03-29

巽孝之 いやあサンディエゴ滞在最後の晩に観た究極の超B級映画What Planet Are You From ? (マイク・ニコルズ監督)はすごかった。ギャリー・シャンドリング扮するひとりの 異星人が種族繁栄のために地球人の女性に種付けすべくやってくる。ところがけっきょくは 異星人も故郷での出世が大事、結婚後は地球人の妻子を残して通勤する、というん ですから。

小谷真理 異星人が欲情するとヴァイブレータみたいな音がうなるのね、ウィ〜ン、ウィン ウィ〜ンあれはバカでしたねー。クローンの男たちが、ホログラムのおねいちゃん相 手にくどく練習をしたり。「こことここが、接触ポイントだ! 」(笑)。しかし、お勉強 競争に打ち勝ってめでたく代表に選抜されたエイリアン(中年のおっさん)が、会う女ご とに開口一番「子供をつくろう」とか「きみとセックスしよう」とかいいまくるため、セクハラとまちがわれてバシバシなぐられる。本人は「習ったとおりなのに、なんでや 〜」(笑)。

 あまりにバカバカしい破壊力にあふれているので、はて日本に来るかどうかが危ぶ まれるほどですけれども・・・ええ、きちんと上陸してほしいと思ってるんですよ、ホントに(笑)。
で、その興奮も冷めやらぬまま、帰国後もテクハラ裁判やら卒業式・園 遊会やらイベントひっきりなしのスケジュールに突入してしまいましたが、さて昨日( 3 月26日)の晩といえば、パニカメ4号にも新作が載ってすっかりおなじみのアヴァン・ ポルノ作家マイケル・キージング氏のアメリカ帰国壮行パーティが南青山はロージャックで開催。むろん、山口君・大串君の肝煎り。芥川賞作家・笙野頼子さんの最新短篇「中目黒前衛聖誕」(三月号掲載)ふたたびというわけで、こんどは笙野さんご自身 のみならず作家の茅野裕城子さん、女装家の三橋順子さん、ドラァグ・クイーンのヴィ ヴィアン佐藤さんを初め、マイケルの授業に出ていた院生・ゼミ生などのアヴァン・ポ ップ関係者が集まり、たいへん楽しいひとときをすごしました。  
で、一夜明けた27日の晩には、巽ゼミの学生女優・千木良悠子君の出演する「指輪ホテル」の新作公演「祈りはたらけ」が辰巳倉庫で。千木良君は、先月2月にはブリガドーンの「セックスは、なぜ楽しいのか?」でも怪優・ 手塚とおるを相手に一歩も譲らぬ演技を見せてくれましたが、今回、小谷さんは、いかがでしたか。

小谷 倉庫は冷えますねぇ。どうして第十期ゼミ代の吉田君が来ていない のかなどと思ってしまったほどです。さぶ〜。あ、これはもちろん内容の話ではなく、わたし自身が冷え性なので、ちょっちつらかったというだけの話で、実際内容的には充実して いましたよ。出演者はみんな女の子だし、なんだか女性文化というか少女的というか、 なんと も女性的な空間でしたね。あ、こういうと古典的な「女性性」を想像なさって えへらえ へらするおじさんたちがいるかもしれないけど。ストーリーはあるようでないようなところが、主宰者・羊屋白玉 氏の定石なので、かなり異色かもしれない。ある工場とおぼしき場所で女の子たちが働いている。ベルトコンベアーにのってきた物体をさまざまに 組み合わせて、完全体にして流していくという労働で、へんな舎監みたいなサドお姉さまが出てきて、女の子たちをシゴいたりする。

 コンベアー上で、おなじみの動物もさることながら、よく見ていると、とうていこの世のものとは思えない生物が組み上がったりしていて、そこがけっこうおもしろかっ たな。ともあれ、ありとあらゆる生物が、つぎからつぎへと コンベアーに載せられていく。なかには絶滅種さえ含まれている。最終的には男の死体までが運ばれてくるところをみると、これは女性たちによる地球生命全体への挽歌のようにも思えてくる。

小谷 要するに組み立て直してもう一回生まれ直すみたいなことをやっているらしいん だけど、もちろんはっきりしない。

 今回は出演者一同によるギター演奏という見物もあったし、そもそも理屈に沿った ストーリーよりは、やはり最も本質的な「絵」と「音」を大事にするのが、指輪ホテル の身上なんでしょう。

小谷 基本は女の子たちのかもしだす雰囲気が さまざまにうつりかわるということで、 その濃縮された感じが今回の収穫でしたね。ああいう親密な女の子たちのかもしだす場の表情を微妙に変化させながら表現するというのは、簡単なようでいて、けっこう難し いものがあると思います。それに今回女優のちぎちぎもセリフが多い役回りで、よかっ たし。

 日頃から発声練習が行き届いてますからね、研究発表させても声の通 りが非常にいいし。今回はギターに歌に群舞とバラエティに富んでいる上、周囲との調和をとても大切にした演技でした。

小谷 そうそう。テーマ的には、前回お伝えしたサンディエゴの会議の話題であるところの、日本の「怪物的少女」に近い。

 指輪ホテルのいままでの感じだとけっこうスプラッタ描写が多かったそうですが、 今回は、主催者であり脚本家である羊屋白玉さんの演技のみでしたね。

小谷 うーん、あれは驚いた。軽い鼻血くらいとか思ったら、ドバドバ吹き出してすぐ 死ぬし。出血な感じ、デーハーでしたね。公演後、ちぎちぎにインタビューしたところ では、現在の劇団の方向性としてはほのぼの系に傾いているとのことでしたが、柔らかい部分と気持ち悪い部分とがあわさって妙に女の子チックな手応えはあったと思います 。

 その意味で、千木良君がフォークナーの「エミリーの薔薇」をなぜ好きかよくわかった。あれって、じつは少女性を主題にしたもうひとつの少女小説なんですね。

小谷 そっかー。 あの老婆は少女魂の権化だったのか。一貫してますなぁ。死体的日常の死ねない少女魂にゴシック感じちゃう今日この頃です。さくらは、まだかニャ〜。

3/29/2000