#3 ねこぞうごめん!

cpamonthly2000-02-27

巽孝之 おとといの金曜日(2月25日)には、いまメフィスト賞受賞作『ハサミ男』が 大評判の新人作家・殊能将之氏が来訪されて楽しいひとときだったのですが、ゆうべ(26日) はハサミ男ならぬシザーハンズで有名なティム・バートンの新作を観に 行ったんですね 。そしたら、なあんとシザーハンズのコスプレで観に来てた人がいて、 いやはや映画以上に怖かった。ほんと、銀幕から抜け出してきたみたいで。小谷さんも 負けてはいられない。

小谷真理 ポンパドール夫人のカッコでもしていけば、よかったかなぁ。ま、でも古式ゆかしいハリウッドの、伏線張りまくり映画でしたね。会場でティム・バートンで 卒論書いたねこちゃんと向山君を捜したんだけど、なぜかいなくて。では さっそくですが、教授、本作のアメリカ文学における評価と位置づけから、お願いします。

 原作者のワシントン・アーヴィングは一応、十九世紀前半に活躍するアメリカ最初 の職業作家ということになってるんで、この作品の原作も、たいていアメリカ短編傑作選のトップに選ばれます。でも正確には、法曹界に足突っ込んだりスペイン公使やった り けっこういろんな仕事に手を染めたし、若い頃には今日でいう留学にあたる 執事・家庭 教師つきのヨーロッパ大名旅行へ出かけたほどのまあたいへんなおぼっちゃまですね。そういう経験を活かして諸外国の風物を観光趣味たっぷりに描くのが、彼の 十八番 。でもまあ、あのどこか不条理で釈然としない原作を、よくもまあここまで スッキリ筋 の 通るように料理しちゃったものだと感心しました。ジョニー・デップの 性格造型は イカバッドよりも、それを創造したおぼっちゃま作家本人に近い気がするけど

小谷 原作のストーリーは、まずニューヨークの郊外に迷信深い村スリーピー・ホロウがある。そこへ、魔女ものを愛読している迷信深い青年イカバッドが教師としてやってくる。で、当地で美少女クリスティーナにホレちゃうんですが、村の青年ブロム・ボー ンズと三角関係になってしまう。その対立がエスカレートしてきたある晩、イカバッド は、伝説の首なし騎士に追いかけられて村を逃げ出す。どうも、その恋敵がコスプレしていたらしい、というオチですね。あれ、映画の首なし連続殺人事件がでてこないなぁ 〜。

 そりゃ話が逆でしょう。だってアーヴィングがノヴェライズしたわけじゃないんだから。

小谷 原案と脚本は『セブン』のアンドルー・ケヴィン・ウォーカーだからね。ぜったい、伏線は落とさない(笑)、伊藤和典さんみたい。一番感動したのは、首なし騎士がか っこよかったこと!  昔の甲冑は顔の部分も覆ってたから、端から見ると機械人形み たいなのですよね。もー、人間って感じじゃないのよ。神の兵士って言うか、地獄の軍団 っていうか、とんでるの。だからホントは首があってもなくても騎士は騎士なんだよん。剣舞もすばらしいし。とにかく絵がよくて冒頭のイカバッド君の旅のシーンなんて、『クーデルカ』の映像みたいにムードがあるんだ。どこか作り物っぽいところも「おとぎ話」好きのティム・バートン好みでいい。

 『クーデルカ』??

小谷 わしが絵につられてつい買ってしまったゲームじゃよ。19世紀の修道院が舞台で 、怪物妖怪ゴシックな雰囲気がなかなかよいのじゃ〜。

 たしかに撮影はイギリスで行われたらしいけど、でも舞台になってるニューヨーク郊外、ハドソン川沿いのスリーピー・ホロウっていうのは、アーヴィング自身が住んでたこともあるけど、小谷さん本人も行ったことのあるところですよ。

小谷 どこだっけ、それ。

 名編集者デイヴィッド・ハートウェルの住んでるプレザントヴィルの近くですから 。もう十年ぐらい前の夏だったかな、彼の家へキャスリーン・クレイマーが転がり込む 時に手伝って、バーベキューしたじゃない。

小谷 ああ、あの時か。すっかり忘れてた。ひどい風邪ひいてたうえにえらく眠かったのだけ覚えてる。そういや、キャスリーンも風邪だった。キミはあのあとうつされた。

  あの町付近に入ると、誰でも眠くなって現実と幻想の区別がつかなくなるんです 。SF編集者にはうってつけの場所というか。だからじっさいの名前はタリータウンでも 、別名スリーピー・ホロウで親しまれてるんですね。

小谷 デイヴィッドと、同じく名編集者のガードナー・ドゾアの故郷は、ふたりとも魔女狩りで有名なセイラム。ファンタジーゆかりの場所にばかり住んどりますなぁ。

2/27/2000