#17-1 ニューヨーク2002年冬

巽孝之:ほんとは昨年2002年の暮れ、12月25日から大晦日まで、MLA(近現代語学文学協会)年次大会のために滞在したニューヨークがとっても楽しかったので、ぜひそのときの印象記を、とHP管理人さんからは言われてたんですよ。ところが、2月に大串尚代君の結婚式をはさんで半年ぐらい、まるまる空いてしまいました。CPA Monthlyが看板に偽りあり、ということになっちゃう・・・って、いまに始まったことじゃないか。最近のご時世もあって海外出張もなかったため、春休みには更新するはずが、まったく申し訳ない限り。
 MLAには我が大学院生もいっぱい参加したし、わたしもコーネル大学大学院時代の同級生でエマソン研究家でもある現カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授クリス・ニューフィールドの発表へ足を運びました。ほかにも作家のマイケル・キージング氏や編集者のエレン・ダトロウやデイヴィッド・ハートウェル、それにキャスリーン・クレイマーと再会したり、ニューヨーク大学大学院映画学科で早川雪洲研究の博士号請求論文を仕上げた宮尾大輔君・容子さん夫妻を囲む会をやったり、ブロードウェイではマイケル・クロウフォード主演の『ヴァンパイアの踊り』やデイヴィッド・ヘンリー・ホアンによるリメイク版『フラワードラム・ソング』、それにジョナサン・ラーソンの『レント』や、『ムーラン・ルージュ』がヒットしたバズ・ラーマン監督自身による『ラ・ボエーム』を観たりと、盛りだくさんの一週間。でも、『ヴァンパイアの踊り』はローマン・ポランスキー映画のリメイクで、21世紀版『キャッツ』みたいなノリもあったのに、あのあと短期で終わっちゃったとかで残念。

小谷真理:『ヴァンパイアの踊り』は当たり!でしたね。わたしの場合はMLAというよりは『ロード・オブ・ザ・リング2』を見に行ったつもりなんですが(笑)、タイムズ・スクエアでポスター見た瞬間、「あ、ゴスだ」「あ、吸血鬼だ」、ピピーン! というかんじで、飛び込みでみたのですが、すばらしかった。でも、マンハッタンのどまんなかで、こんな夜な企画やって大丈夫なの?と思っていたら、やっぱり打ち切り。同時多発テロの爪痕がまだ生々しいかたちで残っているところでは、ブラックユーモアにならなかったんでしょうね。グラウンドゼロをみたあとは、ほんっと落ち込みましたから。

:じつはわたし自身は、マンハッタンへ行ったらタルコフスキーから三十年を経てソダーバーグがリメイクしたというスタニスワフ・レム原作の『ソラリス』を観られるのではないかと期待してたんですが、どうやらアメリカでは不評らしく、この滞在期間中、刻一刻と上映館が減っていって、とうとう大晦日にはマンハッタンではなくニュージャージーで一館だけやってる、ということで、それだとあまりに治安が悪そうなので断念しました。ちょうど、これもリメイクですが、のちにアカデミー賞を受賞する新作映画の『シカゴ』が快進撃を始めていたんですね。もっとも、年明け早々には六本木の二十世紀フォックスで試写を観る機会はあって、『ブレードランナー』以後の『ソラリス』、かつウェイン・ワン監督の『赤い部屋の女』風の高級ポルノ的な味わいのある異色作としてはけっこう堪能したし、5月3日のSFセミナーでは野田令子さん肝煎りで急遽レム・パネルが企画されたので、久々にこの大作家を読み直し考え直すことができたのは収穫だったのですけれども。
 小谷さんも『ハリー・ポッターを読み解く7つの鍵』(平凡社)がたちまち再版、マンハッタンでは『ロード・オヴ・ザ・リング』を二度観たという熱心さで、やみつきになったとか。

小谷: だーかーらーッ。1の時からやみつきですってば (笑)。今回の『ふたつの塔』は、桶狭間の合戦から、大阪冬の陣までというか、戦また戦の映画で、時代劇みたいなんですねー。
 メインは山城攻めで、小さな山のとりでをどう死守するかという合戦が、もー『鬼武者』みたいにおもしろい! 一回目はイーストヴイレッジの比較的小さな映画館で観て、二度目はタイムズ・スクエアのすんごく大きなスクリーンで観たので、音といい映像と言い、ほんとうに満足でした。最後に王がほんの数人といっしょに、馬で城門を駆け抜けるシーンは、騎士だーッ(笑)と、感動。山頂には、白い衣のガンダルフが朝日を浴びて姿を見せるし。とことんまでやってくれました(笑)。
 ヒロイック・ファンタジーでチャンバラ好きにはこたえられない映画でね。帰国して、角川書店のPR誌『本の旅人』では思いのたけをぶちまけましたが、書き足りなくて、岩波書店の月刊誌『世界』映画評でもハメをはずして…(笑)
 でも、映画と言えば、教授のほうもここんとこ、ずいぶんトークショウづいてるね〜。