#1 事故多発地帯

cpamonthly2000-01-31

巽孝之 世紀転換期ということでいろんな事故が起こりますね。このマンションがあるのは港区三田五丁目界隈なんですが、ちょっと気がつくと三の橋へ曲がる角のコンビニにトラックが突っ込んでたりする、なんてのは日常茶飯事。それで本年2000年はのっけから、小谷さんがついこのあいだ危機一髪の命拾いをしたエピソード があったわけですけど。

小谷真理 去る1月25日火曜日夕方、パニカメ4号にも紹介の出た三田の穴場である我が家のご贔屓「カフェ・グレース」にワゴン車が突っ込み、玄関先からレジまでが大破してしまったんですね。負傷者二名。これは、店の前に駐車しようとした運転手がアクセルとブレーキを盛大にふみまちがえた結果と、産経新聞翌日付朝刊は報道しています。 この日、教授はお出かけだったけど、あたしはたまたま自宅でやってた着物の講習会のあと、着物の先生と某女装家のかたといっしょに店内にいて、ちょうど注文を終えたばかり。その矢先に突如、クルマが店内にのめりこんできたから、どひゃーって感じ。あと50 センチ近かったら轢かれていたかもしんない。何より危険だなと思ったのは、万が一、某女装家がケガでもして入院でもしてたらどうなったか、ということですよ。彼女、まだカミングアウトしてないんで。
 でも、あとで話してたんですけど、あの運転手の人って、よっぽどグレースのごはん食べたかったんだね。おなかすいてたのな。

 常連が多いですからね、グレースは。復旧工事のため、しばらく閉店予定とか(注・2000年2月21日復旧開店)。悲しい。東京でいちばんおいしいタラスパが当分食べられない(笑)。
 それにしても三田5丁目周辺というのは、荒俣宏さんの発言をまつまでもなく、もともと風水的に最悪という噂はきいてましたが、最近の事故多発ぶりときたら、まさに黙示録的です。大学へ向かうカーブ脇のビルは休日だというのになぜかいきなり爆発するわ、古川橋真上の高速からは信じられないことにタンクローリーが地上へ落下してあたりいちめん過酸化水素を撒き散らすわ、魚藍坂下の飲食店が大火事になるわ、そして今日もまた、桜田通り沿い三田5丁目と魚藍坂下のあいだでワゴン車がバスと派手な大衝突をやらかすわで、これはもう限りなくJ.G.バラードの世界に近い超現実文学、いやほとんど超現実絵画の域へ達した平凡なる日常光景といっていい。

小谷 あのタンクローリー転落事件の時にはね、あたし、ひかわ玲子さんと電話で話してるさいちゅうだったのね。そしたら、マンションの目と鼻の先で「ドッカーン!」て轟音がしてさ。「ねえねえ、いまの何の音?」「いや、あたしもわかんない」って感じで。

 そうそう、あの爆音はすごかった。わたしはまた、どこかのビルが盛大に爆発したのか、それとも、どこぞの国からミサイルでも撃ち込んできたのかと思いましたよ。

小谷 何事かと思ってテレビのニュースつけたらやっとわかって。それで、一応最寄りだし、火事場見物に行ったじゃない。あのあたりはちょうど古川橋から麻布十番へ向かう方面にラーメン屋さんが何軒かあるのね。一面、破片と液体が散乱していてそりゃもうひどかった。でも、おなかがすいていたから、なんか食べようかと思ったら、教授がちょうちんをさして、「過酸化ラーメン?」みたいなひどいこと言って。でも、実際バイク便の人たちがたくさん来ていて、ニュース速報の原稿を待つ間にラーメン食べていたけどね。

 とにかくすぐ裏手で起こった、おとなりの黙示録ですから。そういえば最近、試写で観たトム・クルーズ主演のポール・アンダーソン作品『マグノリア』も、一見レイモンド・カーヴァーミニマリズムから始まるかと思いきや、ロバート・アルトマン風の群像ドラマになり、さまざまな事故を介して一気に、というかいささか強引なまでに壮大な終末論的クライマックスへ収束するもので、あのラストシーンを思い出してしまいましたよ。ウィリアム・ギブスンの最新長編『オール・トゥモローズ・パーティーズ』(注・邦題『フューチャーマチック』)も、これと通底する方法論で展開していたし。

小谷 あとからメカデザイナー出渕裕君に電話したとき「こんな事件があったんだけど」って言ったら、さすが『機動警察パトレイバー』作った人だけに「おまえ、それヴィデオに撮ったか?」。だって、最初は轟音しか聞こえなくて、何の事件かすらわからなかったんだから。う〜ん危なすぎる。
 というわけで、危険なふたりの対談シリーズ、いよいよ始まります!(1/31/2000)